NMNは中年層のテロメアの長さを増幅させる
2023.1.15
細胞が分裂の際、自身のDNAを複製しながら増殖していきますが、染色体の末端を保護する役割を持っているテロメアと呼ばれる部分は完全には複製されず、徐々に失われていきます。その短縮が限界に達するとDNAの複製は行われなくなり、細胞分裂することが出来なくなります。これが、細胞老化と細胞死です。テロメアの短縮は、代謝性疾患や心臓の合併症など、加齢に伴う疾患の原因となります。加齢にともなう炎症(インフレーミング)は、一部の細菌群集の生物多様性や豊富さの減少、腸内細菌叢のバランスの乱れに伴うもので、加齢関連疾患の発症や進展に寄与していると考えられています。
これまでの研究で、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体であるNMNは、テロメアを長くし、健康な腸内細菌を回復させることが示されていますが、NMNがこれらの効果をヒトにもたらすかどうかは、まだ臨床試験で十分に検討されていません。
天津工業生物技術研究所のWu教授らは、生後16ヵ月の老化前マウス(45~60歳の人間に相当)に500 mg/LのNMNを飲料水として40日間投与したところ、腸内細菌の多様性が変化し、テロメアの長さが増加したことを発表しました。また、研究チームは、ヒト(年齢:45-60歳)にNMNを90日間経口補給してもらい、末梢血単核細胞(PBMC)と呼ばれるヒトの血液細胞において測定を行ったところ、加齢に伴う腸内の微生物相において、免疫および補因子/ビタミン代謝が改善していたこと、細胞の寿命の指標となるテロメア長を2倍にすることを発表。テロメアの長さを伸ばすことは、加齢に伴う病気の発症を抑制し、健康寿命を延ばすことができる可能性がることを示唆しており、基礎となる分子メカニズムを解明するためのさらなる研究と老化に対するNMNの効果を検証する臨床試験を推奨するとまとめています。
【出典】
Niu KM, Bao T, Gao L, Ru M, Li Y, Jiang L, Ye C, Wang S, Wu X. The Impacts of Short-Term NMN Supplementation on Serum Metabolism, Fecal Microbiota, and Telomere Length in Pre-Aging Phase. Front Nutr. 2021 Nov 29;8:756243. doi: 10.3389/fnut.2021.756243. PMID: 34912838; PMCID: PMC8667784.
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NMN摂取による入眠潜時と睡眠の深さに関しての最新研究を発表(ヒト臨床)
2023.1.10
中国・南方科技大学のZhao教授らは、NMNを摂取することで、睡眠が改善されることを実証し、American Journal of Translational Medicine誌に発表しました。
Zhao教授らにより、45歳から75歳までの58人を対象にNMNと睡眠の質の関係性を調べる研究が行われました。対象者は、NMNを摂取する29人の群と摂取をしない29人の群に分けて行われ、調査は、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)とスマートバンド(Huawei Band 6)の睡眠データを用いて評価されました。12週間後の夜間の目覚めや落ち着かなさなど睡眠に関するPSQIの回答によると、NMNを摂取した中高年者は、NMNを摂取しなかった者と比較して、睡眠の質が向上し、入眠潜時(入眠までにかかる時間)も顕著に減少したと回答。また、(手首に装着する)スマートバンドの解析結果によると、レム睡眠とノンレム睡眠の両方を促進することが判明したとしています。
レム睡眠とノンレム睡眠の時間は年齢とともに減少し、60歳を過ぎると最も深い眠りの段階(N3)も消失すると言われています。睡眠は免疫、認知、代謝機能に重要であり、加齢による睡眠の質の低下は、加齢に伴う多くの疾患の原因となる可能性があります。
これまでの研究で、サーチュインは概日リズム(サーカディアンリズム)の調節に重要な役割を担っていることが分かっており、加齢に伴うNAD+レベルの低下は、ヒトの概日リズムにマイナスの影響を与え、睡眠障害を引き起こす可能性があるとしています。これは、NMN摂取によるNAD+が補填されることで、睡眠パターンが改善する裏付けとなり、中高年者のNMN摂取による睡眠の質の向上は、健康長寿の実現も示唆しているとも言えるでしょう。
【出典】
ZHAO, B., Liu, C., Qiang, L., Liu, J., Qiu, Z., Zhang, Z., Zhang, J., Li, Y., & Zhang, M. (2022). Clinical observation of the effect of nicotinamide mononucleotide on the improvement of insomnia in middle-aged and old adults. American Journal of Translational Medicine, 6(4), 167–176.
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兵庫医大NMN注射が血中脂質量を減少させることを示唆する研究結果を発表
2022.9.13
これまでにNMNの経口投与は安全性が実証されていますが、静脈内注射の安全性は未だ確認されておらず、日本国内のいくつかのクリニックでNMNの静脈内投与による臨床が推し進められているところです。NMNを直接血管内に投与すると、体の中心的な解毒器官である肝臓を経由しし、肝臓でろ過されなければ、NMNは心臓や膵臓、腎臓に障害を与える可能性があると懸念されていました。
この度、兵庫医科大学の後藤教授らは、NMNを注射した場合においても、安全に代謝され、中性脂肪(トリグリセライド)濃度が大幅に低下することを、Cureus誌に発表しました。
さらに、NMNの血管内投与により、長寿を促進する分子であるNAD+の血中濃度が約20%も上昇することが判明。NMNの経口摂取では、NMNが血中トリグリセリドレベルを低下させることは知見されていなかったが、血管内投与においても、NMNは安全に代謝され、中性脂肪レベルを低下させるのに役立つ可能性があることを示したとしている。中性脂肪の上昇は、脂肪肝疾患やII型糖尿病と関連しているため、NMN注射は、これらの加齢に伴う疾患に対抗する方法になり得ることが期待されます。
後藤教授らの研究チームは、“NMNを静脈内投与した場合、中性脂肪値を下げるなど、経口摂取はない利点が得られる可能性があり、今後の研究では、NMNの静脈内注射が、筋肉の衰え、インスリン不感症、皮膚などの臓器におけるNAD+レベルの低下など、加齢に関連する状態にどのように影響するかを調べる必要がある。さらに、NMN注射の効果は、より長い期間にわたって測定していく必要があります。”としています。
【出典】
Kimura S, Ichikawa M, Sugawara S, et al. (September 05, 2022) Nicotinamide Mononucleotide Is Safely Metabolized and Significantly Reduces Blood Triglyceride Levels in Healthy Individuals. Cureus 14(9): e28812. doi:10.7759/cureus.28812
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NMNが化学物質に曝露した卵子の質を回復させる
2021.3.14
塗料・印刷インキの溶剤や農薬の原料などの工業製品や液体洗剤などの家庭用品にも用いられる化学物質にエチレングリコールブチルエーテル(EGBE)というものがあります。
EGBEは、各種家庭用品にも頻繁に使用されている化学物質であり、恐ろしいことに皮膚、肺、腸から容易に吸収されます。EGBEに曝露された女性労働者に関する研究では、月経周期の延長と妊娠までの時間が示されていること(Hsieh et al.、2005年)、反復暴露が精巣の萎縮・精子数の減少・精子運動率の低下を引き起こすこと(Melnick, 1984; Wang et al., 2006, 2007)、EGBE の生殖毒性(男女両性の生殖機能や次世代児に対して有害な影響を及ぼす作用)、メスのマウスの不妊症(Cicolella, 2006)など、これまでの研究でも既に報告されていますが、そのメカニズムについてはまだ解明されていません。
中国・南京農業大学のMiao教授らは、ブタの卵細胞を使った実験で、EGBE暴露により卵細胞の成熟不全が生じることを明らかにしたと学術雑誌「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に発表しました。
研究チームは、EGBEの曝露によるブタの卵子への影響を調べたところ、卵子を直接覆う細胞層(卵丘細胞)の膨張不全と成熟を完了することができた卵子(成熟卵)の割合の減少が認められ、卵子の減数分裂の失敗が顕著になったとしています。
卵母細胞は減数分裂を行うことで卵子となり、精子と受精することで受精卵として、個体ができるスタート地点(胚発生)となります。胚発生が正常に行われるためには、卵子は正常な数の染色体を持つ必要があります。この点については、他の多くの研究などでも言及されています。
そして、
“染色体数異常の卵子が受精すると、その多くは正常に胚発生できず、着床前に失われるか、流産となります。出産まで至った場合には、ダウン症(21番トリソミー)などの染色体数異常による先天性疾患を引き起こします。卵子の染色体数は、卵母細胞の減数分裂における染色体分配によって決定され、染色体数異常はその染色体分配に間違いが起こることでもたらされます。”(Hirohisa Kyogoku & Tomoya S. Kitajima, Large cytoplasm is linked to the error-prone nature of oocytes. Developmental Cell 41(3), 287-298 (2017) doi: 10.1016/j.devcel.2017.04.009)
そこで、教授らは、EGBE曝露によって卵子内部の細胞が変性して染色体異常などをおこした卵子にNMNを補充することでどのような変化が起きるかを試験する実験を実施。EGBE曝露した卵母細胞とNMN補給後の卵母細胞のNAD+レベルを検出し比較した結果、EGBEに曝露した卵母細胞では減少していたNAD+レベルが、NMN補填によって有意に上昇することが示されました。また、NMNの補充は、NAD+レベルとミトコンドリア機能を回復させ、過剰な活性酸素を除去することにより、EGBE曝露によって誘発される卵子の減数分裂成熟の失敗や異常な紡錘体と染色体構造の発生率を回復できることを示す結果も得られています。
教授らは、“これらの結果から、NMNの補充は環境汚染物質による卵子の品質劣化から卵子を守る有効な手段であり、動物およびヒトの生殖能力の向上に寄与することが明らかとなった。”と締めくくっています。
【出典】
Miao Y, Li X, Shi X, Gao Q, Chen J, Wang R, Fan Y, Xiong B. Nicotinamide Mononucleotide Restores the Meiotic Competency of Porcine Oocytes Exposed to Ethylene Glycol Butyl Ether. Front Cell Dev Biol. 2021 Feb 2;9:628580. doi: 10.3389/fcell.2021.628580.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2021.628580/full
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NMNが卵子の質(老化)を回復させ妊娠力を高める
2020.3.22
女性の加齢による妊孕力(にんよう力:妊娠できる能力)の低下の主な原因は、“卵子の質の低下”と言われています。妊孕力は、20歳代前半がピークで、20代後半から徐々に衰え始め、30代後半で急速に低下します。
卵子の元になる卵母細胞は、女児がまだ母体内にいる胎生5ヶ月頃に最も多く、約700万個作られますが、生まれる頃には100~200万個になり、初潮を迎える頃には30万個、妊娠できる時期には10~30万個まで減少します。37~38歳で2万5千個以下になると卵胞数減少の加速期に入り、その後の十数年で1000個以下となり、50歳前後で閉経を迎えます。
精子と異なり、卵子は女性の生涯の間に新しく作られることは決してありません。
30代後半になってもまだ数万個もあるのかと思うのは、早合点です。
卵胞は、毎月1つずつ発育するのではなく、1000個位が月経と関係なく育ちはじめ、80日ほどかけて成熟してきたもののうち、月経周期と一致する都合のよい大きさの卵胞が1個だけ選ばれて排卵し、残りは閉鎖卵胞となり消滅していきます。すなわち、卵子は毎日30~40個、1か月で1000個ずつなくなっていきます。
このように、加齢に伴い数が減っていくことに加え、排卵されるまでの非常に長い期間、卵巣内で様々なストレスにさらされ続け、いわゆる”卵子の質の低下”が起こると考えられています。
妊孕力が、母体の年齢ではなく、卵子の質によるところが大きいとされる理由の裏付けとして、年齢の若い女性から卵子提供(ドナー)を受けると、加齢に伴う妊娠率・生産率の低下は見られなくなることが挙げられます。
下のグラフは、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、2020年に発表した「ART(生殖補助医療)生産率」です。
患者自身の卵子を用いた場合(オレンジ色)と若年女性からの提供(ドナー)卵子を用いた場合(紫色)が示す生産率からもわかるとおり、患者自身の卵子を用いた場合は、年齢の増加に伴い生産率は低下しますが、ドナー卵子を用いた場合は、年齢による生産率の低下は認められません。
出典: CDC, 2015, Percentage of Embryo Transfers That Resulted in Live-Birth Delivery, CDC,https://www.cdc.gov/art/reports/2020/summary.html.
「卵子の質」とは、具体的には、以下のようなことがあげられます。
〇 卵子の減数分裂の異常( 染色体異常の卵子が増える)
〇 卵子細胞質でのミトコンドリア機能低下( エネルギー産生が低下し発育不良に)
〇 細胞内の酸化ストレスの増加(活性酸素の増加)
〇 染色体末端のテロメアが短縮する(細胞分裂が停止)
加齢に伴い卵子の質の低下が起きていることは様々な事実から明らかですが、卵子が老化する詳細なメカニズムについては、現在のところまだわかっておらず、「卵子の質」の改善を試みることは非常に難しいとされています。
そんな中、一筋の光明となる研究結果が発表されました。
オーストラリアのシドニー大学とクイーンズランド大学の科学者、そして老化研究の権威であるハーバード大学のデビッド・A・シンクレアらは、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)レベルを上昇させることで、加齢による女性の生殖能力を回復・維持する有効かつ非侵襲的な方法を提供できる可能性を実証しました。
実験のポイントは、
- 加齢に伴い卵母細胞でNAD+が減少し、不妊や卵母細胞の質の低下に寄与しているのか
- NAD+前駆体のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)による治療によってこれを回復させることができるのかどうか
というものです。
実験は、ヒトと同様、卵子欠損により生後8ヶ月頃から生殖能力が低下し始めるマウスにNMNの入った飲用水を4週間にわたって摂取させる方法で行われました。
老化したマウスの卵母細胞では、若いマウス(4〜5週齢)と比較してNAD(P)H(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸:還元反応を触媒するのに用いられる補酵素)レベルが低下し、NMNの摂取により老化したマウスの卵母細胞でNAD(P)Hレベルが上昇することがわかり、また、この傾向が卵母細胞だけでなく、卵巣組織全体にも関与していることが明らかになりました。
実験では、NMNの投与(経口)により、以下の結果なども得られています。
〇 正常な染色体をもつ卵母細胞の割合が著しく向上
〇 高脂肪食を5~6カ月間与えた肥満動物の卵子収量を増加させる
※肥満は不妊症やNAD+レベルの低下をもたらす生理学的課題を抱えている。
〇 内細胞塊の大きさが改善され、NMNの投与期間が長いほど、より顕著に改善される
〇 初期胚(胚盤胞)の細胞数が改善され、体外受精後の着床が成功する
研究者たちは、
“These findings suggest that late-life restoration of NAD+ levels represents an opportunity to rescue female reproductive function in mammals.”
(これらの結果は、晩年期におけるNAD+レベルの回復が、哺乳類における女性の生殖能力を救済する機会を与えることを示唆しています)
と締めくくっています。
論文のフルバージョン(英語)は、下記からご覧いただけます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124720300838
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