NMNが乳がんの増殖と転移を抑制させる
2023.1.25
日本においても乳がんの罹患率と死亡率は、年々増加傾向にあり、50年前は50人に1人だったのが、2021年予測で94,400人となっており、がんの中で最も多くなっています。乳がんでの死亡数も2021年は14,908人であったことが報告されています。
出典:厚生労働省. 2021年人口動態統計月報年計(概数)の概況. p13 図8 悪性新生物<腫瘍>の主な部位別にみた死亡率(人口 10 万対)の年次推移
世界的にみても、乳がんの罹患率と死亡率は、日本と同様の傾向があることが分かっています。中でも、乳がん全体の約20%を占めるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、3年以内の再発率が非常に高く、再発後の生存期間が他のタイプの乳がんに比べ短い乳がんとされています。TNBCは、乳がんの治療で一般的に用いられるホルモン療法や分子標的薬のハーセプチン療法の効果がなく、現在のところ、効果が期待できる薬剤が抗がん剤を用いた化学療法のみに限られていることも特徴です。
この度、中国清華大学のLuo教授らは、「Oncogene」誌に、NMNがマウスにおけるTNBC腫瘍の増殖と転移を抑制し、生存確率を向上させることを発表しました。
教授らは、免疫不全のマウスにヒトTNBC細胞を注入し、1日500mg/kgのNMNを投与し、腫瘍の体積を計測したところ、腫瘍細胞注入後48日目に、NMNを投与したマウスはは、NMNを投与していない腫瘍を持つマウスと比較して腫瘍体積を10%以上減少させ、さらに、肺組織での腫瘍の成長と広がりを半分に減らしたということから、NMNがTNBC腫瘍の成長を著しく遅らせ、他の組織への転移を大幅に制限することを裏付ける結果となったとしています。
NMN摂取によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の濃度が高まることにより、長寿遺伝子ともよばれるサーチュイン1(Sirt1)が活性化し、DNAの修復や活性酸素を除去する働きがあることは、老化研究で一番有名でよく研究されています。
教授らはこれに着目し、さらなる研究において、NMNはNAD+の濃度を高め、Sirt1の働きを増強することで、がんの増殖や転移を遅らせている可能性が高いことを示唆しているとしました。しかしながら、研究では、投与量によりNMNの抗がん作用を十分に発揮することができないケースがあったことも言及しており、NMNの抗がん作用は投与量に依存する可能性があるとしています。
とは言え、これらの知見がヒトに応用されれば、TNBCの増殖と転移を抑制する新たな方法への希望に繋がるものと期待されることは確かでしょう。
【出典】
Jiang Y, Luo Z, Gong Y, Fu Y, Luo Y. NAD+ supplementation limits triple-negative breast cancer metastasis via SIRT1-P66Shc signaling. Oncogene. 2023 Jan 23. doi: 10.1038/s41388-023-02592-y. Epub ahead of print. PMID: 36690678.
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NMNが化学物質に曝露した卵子の質を回復させる
2021.3.14
塗料・印刷インキの溶剤や農薬の原料などの工業製品や液体洗剤などの家庭用品にも用いられる化学物質にエチレングリコールブチルエーテル(EGBE)というものがあります。
EGBEは、各種家庭用品にも頻繁に使用されている化学物質であり、恐ろしいことに皮膚、肺、腸から容易に吸収されます。EGBEに曝露された女性労働者に関する研究では、月経周期の延長と妊娠までの時間が示されていること(Hsieh et al.、2005年)、反復暴露が精巣の萎縮・精子数の減少・精子運動率の低下を引き起こすこと(Melnick, 1984; Wang et al., 2006, 2007)、EGBE の生殖毒性(男女両性の生殖機能や次世代児に対して有害な影響を及ぼす作用)、メスのマウスの不妊症(Cicolella, 2006)など、これまでの研究でも既に報告されていますが、そのメカニズムについてはまだ解明されていません。
中国・南京農業大学のMiao教授らは、ブタの卵細胞を使った実験で、EGBE暴露により卵細胞の成熟不全が生じることを明らかにしたと学術雑誌「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に発表しました。
研究チームは、EGBEの曝露によるブタの卵子への影響を調べたところ、卵子を直接覆う細胞層(卵丘細胞)の膨張不全と成熟を完了することができた卵子(成熟卵)の割合の減少が認められ、卵子の減数分裂の失敗が顕著になったとしています。
卵母細胞は減数分裂を行うことで卵子となり、精子と受精することで受精卵として、個体ができるスタート地点(胚発生)となります。胚発生が正常に行われるためには、卵子は正常な数の染色体を持つ必要があります。この点については、他の多くの研究などでも言及されています。
そして、
“染色体数異常の卵子が受精すると、その多くは正常に胚発生できず、着床前に失われるか、流産となります。出産まで至った場合には、ダウン症(21番トリソミー)などの染色体数異常による先天性疾患を引き起こします。卵子の染色体数は、卵母細胞の減数分裂における染色体分配によって決定され、染色体数異常はその染色体分配に間違いが起こることでもたらされます。”(Hirohisa Kyogoku & Tomoya S. Kitajima, Large cytoplasm is linked to the error-prone nature of oocytes. Developmental Cell 41(3), 287-298 (2017) doi: 10.1016/j.devcel.2017.04.009)
そこで、教授らは、EGBE曝露によって卵子内部の細胞が変性して染色体異常などをおこした卵子にNMNを補充することでどのような変化が起きるかを試験する実験を実施。EGBE曝露した卵母細胞とNMN補給後の卵母細胞のNAD+レベルを検出し比較した結果、EGBEに曝露した卵母細胞では減少していたNAD+レベルが、NMN補填によって有意に上昇することが示されました。また、NMNの補充は、NAD+レベルとミトコンドリア機能を回復させ、過剰な活性酸素を除去することにより、EGBE曝露によって誘発される卵子の減数分裂成熟の失敗や異常な紡錘体と染色体構造の発生率を回復できることを示す結果も得られています。
教授らは、“これらの結果から、NMNの補充は環境汚染物質による卵子の品質劣化から卵子を守る有効な手段であり、動物およびヒトの生殖能力の向上に寄与することが明らかとなった。”と締めくくっています。
【出典】
Miao Y, Li X, Shi X, Gao Q, Chen J, Wang R, Fan Y, Xiong B. Nicotinamide Mononucleotide Restores the Meiotic Competency of Porcine Oocytes Exposed to Ethylene Glycol Butyl Ether. Front Cell Dev Biol. 2021 Feb 2;9:628580. doi: 10.3389/fcell.2021.628580.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2021.628580/full
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