NMNが善玉菌を増殖させる研究結果

2024.1.29

ヒト腸内には、人々の健康に貢献する腸内微生物コミュニティが存在し、「マイクロバイオーム」と呼ばれています。ヒトの腸内には約1,000種、約100兆個の細菌が存在するとされており、微生物同士がコミュニティを形成しています。腸内細菌叢には個人差がありますが、無数の共通点もあり、これらの微生物が生産する物質は腸の環境を整えるだけでなく、健康状態にも関与すると考えられています。腸内のマイクロバイオームは、食事や年齢、運動、抗生物質の使用などによって影響を受けることもわかっています。

 

この度、中国の江蘇農業科学院の研究者らが、NMNが有益な腸内細菌の増殖を促進することをFood Research International誌(2004年に創刊された食品科学に関する月刊誌)に発表しました。

NMNが善玉菌を増殖させる研究結果

(イラスト出典:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0963996923013273#s0080)

 

タン博士らは、唾液、胃、小腸の模擬環境におけるNMNの消化を調べるとともに、試験管内発酵モデルを用いてNMNとヒト腸内細菌叢との相互作用について実験。

NMNはヒトの腸内細菌叢による分解・発酵速度はゆっくりした速度をとることがわかった。ヒト腸内細菌がNMNを摂取した結果、プロピオン酸および酪酸の濃度は、比較対象軍と比べてそれぞれ88%および23%増加し、免疫力や健康維持に有益な腸内細菌は、著しく増加したが、いくつかの有害な細菌は激減した。

 

最近の研究では、生体内のNMNレベルを上げることで、心血管障害や脳血管障害、神経変性疾患、老化に関連する変性疾患に対して、治療効果や回復効果、膵島機能の維持・修復、インスリン分泌の改善、糖尿病や肥満などの代謝性疾患の予防・治療に積極的な役割を果たしていることなどが実証されていますが、ヒトの腸内微生物におけるNMNの代謝過程も、腸内微生物に影響を与えるメカニズムもよくわかっていませんでした。

 

タン博士らは、

これらの知見は、腸内におけるNMNの代謝過程を示すものであり、NMN、SCFAs、腸内細菌叢の関係を詳しく説明するものである。NMNは、腸内環境を改善するプレバイオティクスの可能性があることを示唆しており、本研究の結果は、ヒトの腸内健康を改善するための機能性栄養素としてのNMNの基礎情報を提供し、ヒトの腸内におけるNMNの代謝過程にさらなる光を当てる可能性がある。

と締めくくっている。

 

※プレバイオティクスとは…プレバイオティクスという言葉は、1994年のILSI Europe主催の「腸内菌叢:栄養と健康」と題するワークショップでGibsonとRoberfroidにより提唱され、翌年に彼らにより執筆された総説(Gibson GR, Roberfroid MB. 1995. Dietary modulation of the human colonic microbiota: introducing the concept of prebiotics. J Nutr 125:1401-1412)の中で詳細に説明されている。プレバイオティクスという用語は、有害な病原性細菌を抑制する抗生物質(antibiotics)に対して考案された。すなわち、プレバイオティクスは大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分と定義した。(参考:公益財団法人 腸内細菌学会, 用語集, プレバイオティクス(prebiotics),

https://bifidus-fund.jp/keyword/kw022.shtml)

 

 

論文のフルバージョン(英語)は、下記からご覧いただけます。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0963996923013273?via%3Dihub

 

【出典】

Zhaocheng Tang, Peng Bao, Xitie Ling, Zeyu Qiu, Baolong Zhang, Tingting Hao, In vitro digestion under simulated saliva, gastric and small intestinal conditions and fermentation of nicotinamide mononucleotide, and its effects on the gut microbiota, Food Research International (February 2024, 113779),

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0963996923013273?via%3Dihub

 

 

 

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NMNは視床下部において低下したNAD+レベルを回復させる

2023.1.26

NMNと認知機能の向上

ワシントン大学の今井教授らの研究チームにより、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)またはNAD+合成酵素NAMPTを含むeNamptを高齢マウスに投与すると、視床下部の領域でNAD+レベルが増加することが明らかにされました。

 

NAD+は加齢とともに減少し、特に記憶を司る海馬での枯渇は、認知障害と関連していると言われていますが、これまでの研究では、視床下部などの脳領域において、NAD+が減少するかどうかについては、ほとんど分かっていませんでした。

 

npj aging誌に掲載された今回の研究では、ワシントン大学の今井教授らの研究チームが新たに確立したメソッド(※)を用いて、若齢および高齢のマウスで視床下部のNAD+レベルを正確に測定することに成功。

※レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、小さな組織サンプルでNAD+レベルを正確に測定する新しいコンビネーター方式

 

 

今井教授らは、このメソッドを用いて、視床下部核における局所的なNAD+の変化を調べたところ、22ヶ月齢のマウスでは3ヶ月齢のマウスと比較して、4つの小領域のうち3つでNAD+レベルが有意に低下することが明らかになったとしています。

 

“We were able to establish a new combinatorial methodology, using laser-captured microdissection (LCM) and high-performance liquid chromatography (HPLC), to accurately measure NAD+ levels in small tissue samples. We applied this methodology to examine local NAD+ changes in hypothalamic nuclei and found that NAD+ levels were decreased significantly in the arcuate nucleus (ARC), ventromedial hypothalamus (VMH), and lateral hypothalamus (LH), but not in the dorsomedial hypothalamus (DMH) of 22-month-old mice, compared to those of 3-month-old mice.”((Imai et al., 2023 | NPJ Aging) NMN attenuates falling NAD+ levels in four subregions of the hypothalamus.)

 

そこで、22カ月齢の高齢マウスに300 mg/kgのNMNを1回注射すると、減少が認められていた3つの領域すべてでNAD+レベルが回復することがわかり、次いで、NMNは高齢マウスの視床下部におけるNAD+レベルの低下を抑制することが明らかになったとしています。

 

さらには、若齢マウスから抽出したニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ含有細胞外小胞(eNampt-EV)を、高齢マウスに投与したところ、視床下部のARCとDMHの領域において、NAD+レベルが有意に高くなることが分かりました。これらの結果は、加齢に伴う視床下部におけるNAD+調節の特異性を明らかにしており、今後行われる、視床下部におけるNAD+の減少が及ぼす影響についての研究に期待が高まっています。

 

 

【出典】

Johnson, S., Yoshioka, K., Brace, C.S. et al. Quantification of localized NAD+ changes reveals unique specificity of NAD+ regulation in the hypothalamus. npj Aging 9, 1 (2023). https://doi.org/10.1038/s41514-023-00098-1

 

 

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NMNが乳がんの増殖と転移を抑制させる

2023.1.25

 

日本においても乳がんの罹患率と死亡率は、年々増加傾向にあり、50年前は50人に1人だったのが、2021年予測で94,400人となっており、がんの中で最も多くなっています。乳がんでの死亡数も2021年は14,908人であったことが報告されています。

 

出典:厚生労働省. 2021年人口動態統計月報年計(概数)の概況. p13 図8 悪性新生物<腫瘍>の主な部位別にみた死亡率(人口 10 万対)の年次推移

 

世界的にみても、乳がんの罹患率と死亡率は、日本と同様の傾向があることが分かっています。中でも、乳がん全体の約20%を占めるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、3年以内の再発率が非常に高く、再発後の生存期間が他のタイプの乳がんに比べ短い乳がんとされています。TNBCは、乳がんの治療で一般的に用いられるホルモン療法や分子標的薬のハーセプチン療法の効果がなく、現在のところ、効果が期待できる薬剤が抗がん剤を用いた化学療法のみに限られていることも特徴です。

 

この度、中国清華大学のLuo教授らは、「Oncogene」誌に、NMNがマウスにおけるTNBC腫瘍の増殖と転移を抑制し、生存確率を向上させることを発表しました。

 

教授らは、免疫不全のマウスにヒトTNBC細胞を注入し、1日500mg/kgのNMNを投与し、腫瘍の体積を計測したところ、腫瘍細胞注入後48日目に、NMNを投与したマウスはは、NMNを投与していない腫瘍を持つマウスと比較して腫瘍体積を10%以上減少させ、さらに、肺組織での腫瘍の成長と広がりを半分に減らしたということから、NMNがTNBC腫瘍の成長を著しく遅らせ、他の組織への転移を大幅に制限することを裏付ける結果となったとしています。

 

NMN摂取によりニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の濃度が高まることにより、長寿遺伝子ともよばれるサーチュイン1(Sirt1)が活性化し、DNAの修復や活性酸素を除去する働きがあることは、老化研究で一番有名でよく研究されています。

教授らはこれに着目し、さらなる研究において、NMNはNAD+の濃度を高め、Sirt1の働きを増強することで、がんの増殖や転移を遅らせている可能性が高いことを示唆しているとしました。しかしながら、研究では、投与量によりNMNの抗がん作用を十分に発揮することができないケースがあったことも言及しており、NMNの抗がん作用は投与量に依存する可能性があるとしています。

 

とは言え、これらの知見がヒトに応用されれば、TNBCの増殖と転移を抑制する新たな方法への希望に繋がるものと期待されることは確かでしょう。

 

【出典】

Jiang Y, Luo Z, Gong Y, Fu Y, Luo Y. NAD+ supplementation limits triple-negative breast cancer metastasis via SIRT1-P66Shc signaling. Oncogene. 2023 Jan 23. doi: 10.1038/s41388-023-02592-y. Epub ahead of print. PMID: 36690678.

 

 

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NMNは中年層のテロメアの長さを増幅させる

2023.1.15

テロメアの長さを伸長させるNMN

 

細胞が分裂の際、自身のDNAを複製しながら増殖していきますが、染色体の末端を保護する役割を持っているテロメアと呼ばれる部分は完全には複製されず、徐々に失われていきます。その短縮が限界に達するとDNAの複製は行われなくなり、細胞分裂することが出来なくなります。これが、細胞老化と細胞死です。テロメアの短縮は、代謝性疾患や心臓の合併症など、加齢に伴う疾患の原因となります。加齢にともなう炎症(インフレーミング)は、一部の細菌群集の生物多様性や豊富さの減少、腸内細菌叢のバランスの乱れに伴うもので、加齢関連疾患の発症や進展に寄与していると考えられています。

 

これまでの研究で、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体であるNMNは、テロメアを長くし、健康な腸内細菌を回復させることが示されていますが、NMNがこれらの効果をヒトにもたらすかどうかは、まだ臨床試験で十分に検討されていません。

 

天津工業生物技術研究所のWu教授らは、生後16ヵ月の老化前マウス(45~60歳の人間に相当)に500 mg/LのNMNを飲料水として40日間投与したところ、腸内細菌の多様性が変化し、テロメアの長さが増加したことを発表しました。また、研究チームは、ヒト(年齢:45-60歳)にNMNを90日間経口補給してもらい、末梢血単核細胞(PBMC)と呼ばれるヒトの血液細胞において測定を行ったところ、加齢に伴う腸内の微生物相において、免疫および補因子/ビタミン代謝が改善していたこと、細胞の寿命の指標となるテロメア長を2倍にすることを発表。テロメアの長さを伸ばすことは、加齢に伴う病気の発症を抑制し、健康寿命を延ばすことができる可能性がることを示唆しており、基礎となる分子メカニズムを解明するためのさらなる研究と老化に対するNMNの効果を検証する臨床試験を推奨するとまとめています。

 

 

【出典】

Niu KM, Bao T, Gao L, Ru M, Li Y, Jiang L, Ye C, Wang S, Wu X. The Impacts of Short-Term NMN Supplementation on Serum Metabolism, Fecal Microbiota, and Telomere Length in Pre-Aging Phase. Front Nutr. 2021 Nov 29;8:756243. doi: 10.3389/fnut.2021.756243. PMID: 34912838; PMCID: PMC8667784.

 

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NMN摂取による入眠潜時と睡眠の深さに関しての最新研究を発表(ヒト臨床)

2023.1.10

中国・南方科技大学のZhao教授らは、NMNを摂取することで、睡眠が改善されることを実証し、American Journal of Translational Medicine誌に発表しました。

 

Zhao教授らにより、45歳から75歳までの58人を対象にNMNと睡眠の質の関係性を調べる研究が行われました。対象者は、NMNを摂取する29人の群と摂取をしない29人の群に分けて行われ、調査は、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)とスマートバンド(Huawei Band 6)の睡眠データを用いて評価されました。12週間後の夜間の目覚めや落ち着かなさなど睡眠に関するPSQIの回答によると、NMNを摂取した中高年者は、NMNを摂取しなかった者と比較して、睡眠の質が向上し、入眠潜時(入眠までにかかる時間)も顕著に減少したと回答。また、(手首に装着する)スマートバンドの解析結果によると、レム睡眠とノンレム睡眠の両方を促進することが判明したとしています。

 

レム睡眠とノンレム睡眠の時間は年齢とともに減少し、60歳を過ぎると最も深い眠りの段階(N3)も消失すると言われています。睡眠は免疫、認知、代謝機能に重要であり、加齢による睡眠の質の低下は、加齢に伴う多くの疾患の原因となる可能性があります。

 

これまでの研究で、サーチュインは概日リズム(サーカディアンリズム)の調節に重要な役割を担っていることが分かっており、加齢に伴うNAD+レベルの低下は、ヒトの概日リズムにマイナスの影響を与え、睡眠障害を引き起こす可能性があるとしています。これは、NMN摂取によるNAD+が補填されることで、睡眠パターンが改善する裏付けとなり、中高年者のNMN摂取による睡眠の質の向上は、健康長寿の実現も示唆しているとも言えるでしょう。

 

【出典】

ZHAO, B., Liu, C., Qiang, L., Liu, J., Qiu, Z., Zhang, Z., Zhang, J., Li, Y., & Zhang, M. (2022). Clinical observation of the effect of nicotinamide mononucleotide on the improvement of insomnia in middle-aged and old adults. American Journal of Translational Medicine, 6(4), 167–176.

 

 

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